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読んだ本の記録とメモ

川原泉『空の食欲魔神』

川原泉『空の食欲魔神』メモ

不思議なマリナー

たとえば
2匹の焼き魚が あった時
加納さんは いつも
ごく自然に大きい方をわたしにくれるのだ
加納さんはそーゆー人なのだ

ミソ・スープは哲学する

…世界は
世界は不透明である
と透明な人は言った…

アンドロイドはミスティー・ブルーの夢を見るか?

私の宇宙船はたくさんある
だけど 私は 船主より船乗りになりたかった
私の宇宙飛行士はたくさんいる
だけど 私は 自分が宇宙へ船出したかった 

 進駐軍に言うからねっ!

よ〜するに はじめは みんな 他人である

3月革命

本日お集まりの皆々様ごめんなさい
おとーさんおかーさんごめんなさい
だけど3月革命のシーズンなので
恥知らずにも浩生とわたしは堂々と退場するわ
堂々と……
ああ 桜よ桜 桜吹雪

月夜のドレス

秋好は…
ボケーッとして物覚えが悪くて感動が薄そーで…だけど秋好は
何気ないふりして歯をくいしばり
…そーして誰もいない所で泣くのだろう

 

解説 夢だっていいじゃない 伊藤比呂美

川原泉の描く女の子たちは、じっさい受験生かそうじゃないかと別にしても、受験という、性の区別のない世界ではりりしく生きてきた印象を与える。でも、彼女たちは、じつは受験後の運命がこわい。成熟しなくちゃいけない未来がこわい。性を直視したくない。それを打ち消したい。川原泉の素人っぽさが、姑息なのか無邪気なのかわからなくなるのはこのときだ。性の差も年齢の差も、描けないのではなくて、描かないんじゃないのか。女の子たちのきているふわっとした服。エプロンは、生理的な女らしさをかくす手段だ。女の子たちのぶっきらぼうなことばづかいは、社会的な女らしさをかくす手段だ。高校球児といえば背が高くって重たくって臭くってにきびだらけで醜いはずだが、それが金髪をなびかせ、春の日だまりのようにほほえむだけなのは、それしか描けないからじゃなくて、そう描きたいからだ。三〇男たちの目に星がきらめき、高校生のようにういういしいのも、そうあってほしいからだ。川原泉は性を消しまくったわけである。

 

性は打ち消したいが、恋愛の夢は見たい。恋愛は、女の子たちにとって、問答無用の見はてぬ夢。こういう社会の中で、すなおでいい子の女の子として、少女マンガ読みながら育ってきたら、それしかないのである。でも現実は直視したくない。それなら、成熟さえしなければいい。すなおないい子、かわいい子のままでいつまでもいられればいい。そうしてお父さんのお膝の上であんのんとしていたい。おじさんたちは、つまりそのためにいる。みんな、お父さんの身代わりである。

 

 

感想

私は、私を無理やり成熟させようとするすべてが苦手なんだな

女の子的なものは好きだし、かわいいものや美しいものにときめくけれど、それと「女であること」を強要されるのは全く違う

川原泉の世界はやさしくてあたたかくてすき

性ではなく、人間として尊重して欲しいってずっと思っている

わかってくれる人は多くはないけれど、私は夢をみていたい

 

 

空の食欲魔人 (白泉社文庫)

空の食欲魔人 (白泉社文庫)

  • 作者:川原 泉
  • 発売日: 1994/09/01
  • メディア: 文庫