マルグリット・デュラス『破壊しに、と彼女は言う』
『破壊しに、と彼女は言う』
マルグリット・デュラス
田中倫郎 訳
マルグリット・デュラス『破壊しに、と彼女は言う』メモ
P36
「ここが居心地がよくって、幸福みたいな気分になってくるんだ」
きっとアニタは十四歳ぐらいだろう。
エリザベート・アリオーヌの亭主は、おそらく彼女より年下だ。
「幸福みたいな気分?」とアリサが訊く。
「くつろげるーーという意味なんだ」
P38
「どうして危険なの?」と彼女は訊く。
「きみと同じく、ぼくだって知らないよ。どうしてなんだろう?」
「みんながこわがるからよ」とアリサは言う。
P39
「きみが来てくれて、ほんとによかった」
彼女は体の向きを変える。また彼女の視線が向けられる。ゆっくりと。
「破壊しにね」と彼女は言う。
P47
「シュタイン、彼は夜、自分の部屋であたしなしでいたのよ。あらゆることが、あたしを抜きにして、もう一度生まれ始めてたのね、夜だってそうよ」
P89
『わたしはこわがり屋なんです』とアリサは続ける、『見捨てられるのもこわいし、未来もこわい、愛することもこわい、暴力や群衆もこわい、未知なるものもこわい、飢餓状態もこわい、惨めな状態もこわい、真理もこわい』
文庫版解説
P183
「あらゆる人間関係は、性的関係をも含めて、階級関係です。私がアンガジェーしていると言ったりすることはなんの意味もない。私の書くことすべてが自然に政治化されるのです」
P189
デュラスはこういう若者たちの、「なにもしないでいられる能力」を高く評価する。「私が映画を作るのは時間をつぶすためである。なにもしないでいられる力があれば、私はなにもしないであろう。私が映画を作るのは、なにもしないことに専念する力が欠けていたためである」
感想
やっと読めた。初めてこの本に出会ったのは、今は無き西荻窪のbeco cafeで、私はまだ17歳かそこらだったと思う。このブックカフェでホットラムミルクを飲みながら浅野いにおの漫画とこの本『破壊しに、と彼女は言う』に出会った。タイトルに惹かれたのをよく覚えている。それでも、そこで読む時間はなく、タイトルだけを控えていた。それから数年後、偶然ーーほんとうに偶然、古書フェアでこの本を見つけた。普段は中古品は買わない主義なのだけど、ご縁と感じて購入するに至った。
それから少し読み始めたが、75頁辺りでとめたまま、読み切ることができないでいた。まるで理解が追いつかなかった。全くと言っていいほど読めなかった。
そろそろ10年が経とうとしている今回、初めて最初から最後まで通して読むことができた。
ホラーのようにも感じたし、多重人格者の話なのかとすら疑いながら読んでいた。まだ当分理解は難しい気がした。どう受け止めたらいいのかもわからない。狂人とはなんだろうか。